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今回は知る人ぞ知るギターブランド【Knaggs(ナッグス)】の魅力について、楽器の特徴や主要シリーズについてまとめました。楽器があまり出回っていないだけに、情報が少ない楽器メーカーですのでぜひこの記事を参考にしてみてください。
Knaggsギターって
「ナッグス・ギターズ(以下、ナッグス)」は、木の美しさをいかんなく発揮させた木工技術と独自設計のブリッジを特徴とし、エレキギターの伝統的なスタイルと革新的な設計を共存させる、気鋭の高級ギターブランドです。
PRS(ポールリードスミス)創業メンバーだったジョー・ナッグス氏、ブランディング・マーケティングの専⾨家ピーター・ウルフ⽒の2⼈を中⼼として、2009年に設立されました。ナッグス氏はポール・リード・スミス氏の右腕として20年以上のキャリアを持ち、最高技術責任者としてプライベート・ストックの責任者をも勤めていましたから、氏の独立は業界では大きなニュースとなりました。
今回は、ジョー・ナッグス氏がそこまでして作りたかった、ナッグスのギターについて見ていきましょう。
Chesapeake Series「Choptank」に見る、Knaggs Guitarsの特徴
チェサピーク・シリーズから「チョップタンク」をピックアップし、ナッグスのギターがどういうものか、じろじろと見ていきましょう。従来のエレキギターをリスペクトしながら、さまざまなオリジナリティが反映されています。
独自開発のブリッジ
独自設計のブリッジは、ラインナップをシリーズ分けする起点となる、ナッグスの大きな特徴です。伝統的なブリッジに独自のアレンジを施すことで、機能性を追求すると共に豊かな倍音とサスティンを目指しています。
「チョップタンク」に搭載される「チェサピーク・ブリッジ」は、削り出しで成形したベースプレートに6個のサドルが沈み込むように収まります。これにより、余計な共振が抑えられるとともにサスティンが向上します。サウンド的には、高音と低音が豊かに出る、明瞭な響きを狙っています。トレモロユニットは蝶番(蝶番)で連結させる方式をとり、ピックアップ搭載用プレートと連結します。
妥協なき木工技術
木材に曲面を削り出すことを「カービング(carving)」と言い、マシンに頼らない手彫りを「ハンドカービング」と言います。プライベートストックで発揮されたナッグス氏のカービングは世界的に評価されており、ハンドカービングセミナーため来日もしています。
それを誇示するかのように、ナッグスのギターにはギター全体にカービングが施され、ボディトップには流れるような滑らかさがあり、ボディバックには身体にフィットするコンター加工が、また一見平面に見えるところもうっすらと曲面を描かれ、ネックジョイント部にも剛性と美しさを共存させた成形が施されます。
チョップタンクのボディも一見フラットに見えて、外周部分は斜めにカットされ、エルボー部は大胆なカットが入れられます。バックコンターもなかなかに大胆で、高く構えてもラクチンです。
全てのギターがセットネック仕様となっているのは、ナッグスのこだわりです。接合面はボディ形状に応じて可能な限り広く取られており、振動の伝達に優れています。またモデルごとに異なる表情を見せるヒール部分は、手作業によって美しく仕上げられています。
ピックガードに銘木を使用するのもナッグスのこだわりで、高級感の演出に大いに貢献しています。木製ピックガードはサウンド面にも貢献します。一般的な樹脂製のピックガードは倍音を吸収してしまう性質がありましたが、木製ピックガードはボディとともに振動に反応し、抜けの良いナチュラルな響きを醸し出します。
伝統に敬意を払いながら、現代的なサウンド
選び抜かれたマテリアル、またそれを活かす加工技術により、反応がよく粒が揃う、そして高密度なトーンになっています。反応が早く倍音を多く含むトーンからはヴィンテージギターに対するリスペクトを強く感じさせられますが、サスティンが豊かでエフェクタとの相性もよい現代的なサウンドです。
Knaggs Guitarsのラインナップ
ナッグスのオリジナルギターは、圧倒的な高級感とプレイアビリティ、そしてトーンによって、私たちにため息をつかせます。 ラインナップは、ブリッジの名称にちなんだ二つのシリーズが主軸です。
- ①Chesapeake(チェサピーク)シリーズ:弦長25.5インチ(フェンダースケール)、Chesapeakeブリッジ搭載
- ②Influence(インフルエンス)シリーズ:弦長24.75インチ(ギブソンスケール)、Influenceブリッジ搭載
そしてそれぞれの派生モデル、またそれぞれに3段階あるグレードと、細分化されていきます。木材を変更したりボディをホロウ化したりと、オプションも豊富です。各モデルにはネイティブ・アメリカン由来の河川名や地名が充てられ、独特の雰囲気を演出しています。
3段階のグレードは、
- Tier(ティア)1:模様の美しい木材をふんだんに使用し、インレイやパーフリングによる意匠を凝らした最高グレードモデル
- Tier2:インレイやパーフリングなどの装飾を控えた基本モデル
- Tier3:トップ材を省略するなど、さらにもう一歩シンプルにまとめて価格を抑えたモデル
という形で分けられますが、そもそもナッグスは高級ギターのブランドなので、お求めやすい価格と言ってもなかなか良いお値段になります。
ネックグリップについては、これまでの「61(61年製ストラトから採寸)」、「59(59年製レスポールから採寸)」といった表示が改められています。現在では「Knaggs C with Slight V」のようなふんわりした表示になっていますが、同じ表示でも全モデルで実際のグリップは少しずつ異なります。
①Chesapeake Series
チェサピーク・シリーズの特徴はこんな感じです。
- 弦長25.5インチのメイプルネック
- フェンダー的なスタイル
- チェサピークブリッジ搭載
- ストラト的な「Severn」
- テクニカル志向にアレンジした「Severn X」
- テレキャス的な「Choptank」
Severn
「セヴァーン」はチェサピーク湾に注ぐ川の名前で、ナッグス氏がストラトを遠くまで連れて行った、と表現できるオリジナルギターです。フィギュアドメイプルトップのボディに銘木製のピックガードが充てられており、高級感に満ちています。バック材にはトーンバランスを熟慮して厳選されたアルダーやスワンプアッシュが使われます(ティア3はアッシュorアルダー単体ボディ)。ネックジョイント部は、段差なくネックに接続されます。船舶を思わせる形状に手彫りされており、「河川」というテーマが色濃く反映されています。
「8.5″」という指板Rは、ヴィンテージ・スタイルよりちょっと平ら気味で、フェンダーで言うミディアムジャンボくらいのフレットが使用されます。
Severn X
「セヴァーンX」は、上記セヴァーンをより現代的にアレンジした、モダン/テクニカル志向のギターです。ピックガードのないルックスが特徴ですが、FRT装備、マホガニーネックといった「セヴァーン」にはないオプションもあります。
最大の違いはネック仕様に現れます。ネック本体はセヴァーンと比べて全体的にやや細め、指板R14″という平滑な指板にEVO製ジャンボフレットが打ち込まれます。EVOは、銅やチタンなどを混ぜた金色の合金です。標準的なニッケルシルバーとステンレスのちょうど中間くらいの硬さで、削れにくく滑りが良いのがメリットです。
Choptank
「チョップタンク」もセヴァーン同様、チェサピーク湾に注ぐ川の名前です。テレキャスターをルーツとしながら、様々なアレンジが加えられています。特に滑らかに削られたトップと身体にフィットさせるための大胆なコンター加工は、見る角度を変えると表情が変わる杢を一層引き立てます。
程よい厚みがありがっしりと握り込むのに適したグリップは、テレキャスターに慣れているプレイヤーならば手にした時から馴染むと言われます。セヴァーン同様、8.5″Rの指板にミディアムジャンボフレットが打ち込まれます。ジョイント部分の削り方はセヴァーンと異なり段差ができていますが、こうしたジョイント部分の形状やボディ/ネックが接合される面積、またジョイント位置の違いによって弦の振動が影響を受け、このモデル固有のトーンが作られます。
②Influence Seriese
インフルエンスシリーズの特徴です。
- ギブソンを意識したスタイルとマホガニーボディ
- 弦長24.75インチのマホガニーネック
- インフルエンスブリッジ
またどのモデルでも外周近くを滑らかに掘り下げたボディトップ、身体にフィットするバックコンター、カッタウェイに合わせたネックジョイント部など、全体に施されたカーヴィングの美しさは芸術の域に達しています。
”インフルエンスブリッジ”
「インフルエンスブリッジ」は、チューン・O・マチック的でありながらブリッジとテールピースがベースプレートを介して一体化していることを特徴としています。中域をしっかり前に押し出す響き方を狙っており、本体に質量があるためサスティンに有利で、ボディと接する面積が広いことから振動伝達の効率にもすぐれます。
インフルエンス・シリーズのラインナップは、以下の通りです。
- レスポールライクなKenai
- フルアコ的なボディ構造のChena
- 左右対称ボディでダブルカッタウェイのKeya
- KeyaをセミアコにアレンジしたSheyenne
全モデルでネックシェイプが数値的に共通するほか、12″Rの指板にミディアムサイズのフレットを打つのも共通です。
Kenai
「ケナイ」の名称はアラスカ州にある街の名前が由来で、メイプルトップ/マホガニーバックのボディ、マホガニーネック、2基のハムバッカーピックアップといった、伝統的なレスポールのスペックを継承しています。
ボディ厚はネックジョイント部分からボディエンドへと、徐々に厚くなっていきます。ボディトップの美しい曲線はもちろんの事、バックにも大胆なコンター加工が施されますが、一見平らに見えるボディバックもなだらかな曲面になるよう処理されています。これらの加工は美観の演出だけでなく、トップ/バックのバランスをとり、鳴りを最大限に引き出し、また重量バランスをとるという楽器に必要な機能も考慮されています。
ギブソン系のスタイルということもありコイルタップは付きませんが、ハムバッカーのままでも高域を豊かに含むシャープなトーンを得る事ができます。
Chena
「チェナ」の名称は、アラスカに流れる河川が由来となっています。先述したケナイのボディをブリッジ部分以外くり抜いたもので、レスポール的なサイズながらフルアコ的なボディ構造を持っています。寸法やパーツなどほとんどの部分でケナイと同一ですが、豊かな鳴りを確保するためにバック材のみ若干厚さを増しています。この構造からフルサイズに引けを取らないふくよかなトーンが得られますが、甘い中にしっかりとコシがあり、ロックにも良好です。
Keya
「ケヤ」は北アメリカを流れる河を名称の由来とする、左右対称のダブルカッタウェイモデルです。メイプルトップ/マホガニーバックのボディ、マホガニーネック、2基のハムバッカーピックアップという基本スペックはパーツ/マテリアル共にケナイと共通していますが、バックのマホガニーが若干薄くなっていることから重量は軽く、またメイプルが比較的主張するタイトでブライトなトーンバランスになっています。「24フレット」という音域は、レギュラーモデル内で唯一の存在です。
ダブルカッタウェイはシングルカッタウェイに比べてジョイント部分の剛性が不足しやすいのですが、そこのところも考慮したボリューム感のあるヒールが採用されています。
Sheyenne
「シャイアン」もケヤ同様に、北アメリカを流れる河を名称の由来としています。ケヤをセミアコにしたギターとはいえ、ボディ幅が若干広くなり、また操作系はギブソン的な2ヴォリューム2トーンに変わっているので全く違う楽器になっています。一見大きめな印象のボディは、トップ/バックの絶妙なアーチによって違和感無く抱えられ、テクニカルなプレイにも良好です。
マホガニーのセンターブロックはジョイント部分からブリッジ下までで、ボディエンド側は空洞になっています。これによりセミアコの引き締まったサウンドイメージは残しながら、ボディトップの振動をより活かしたふくよかな丸いトーンが強調されています。
Signature Models/Steve Stevens SSC
スティーヴ・スティーヴンス氏のシグネイチャーモデルは、ケナイをベースとしてネックをちょっとだけ太くするほか、TOMブリッジに換装、ご自身のシグネイチャー・ピックアップを装備しています。ヘッドストックにはレーザーガンのインレイが施されます。
Creation Series
「クリエイション・シリーズ」は、他にはない、まったく違うものを求める声に応じるワンオフモデルです。オーダー主のイメージだけでなくテーマ性や⼈⽣までをジョー・ナッグス氏に伝え、それに対するナッグス氏のアーティストとしての解釈によって作られます。注文には代理店を通しますが、最終的にナッグス氏ご本人と相談することになります。どれくらいの予算が必要なのかは公表されていませんが、「憧れのギター」に相応しい価格設定になっているのは容易に想像できますね。
最後に
以上、ナッグスのギターについて注目していきました。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。 ナッグスは、ナッグス氏本人とPRS時代の同僚クラフトマンらによるチームで立ち上げられました。プライベートストックの責任者でもあったナッグス氏が同僚を引き連れて退社したのは、PRSにとっては会社の存続に関わる大事件だったようです。ナッグス氏は2009年8月一杯でPRSを退社しましたが、この時期PRSではモダンイーグル、スワンプアッシュスペシャル、Custom22、SC245といったモデルが製造終了になるほか、カラーバリエーションに大きな制限がつきました。公式な情報が得られている訳ではありませんが、ナッグス氏らの退社と無関係だとは決して言えません。
とはいえこれ以後PRSの品質が落ちることはなく、むしろ高級機の仕様がレギュラーラインに採用されるなど、製品のグレードはアップしています。また現在Custom22やSC245は復活しており、カラーバリエーションも充分すぎるほどに充実しています。PRSクラフトマンの層がいかに厚かったか、またいかにPRSがただでは転ばないかがわかりますね。「独立したナッグス氏と連携してカスタムショップのような付き合いをする」というPRS公式の説明もあり、これでPRSとナッグス氏との関係が険悪になったわけでもないようです。